パンと酵母|よっちゃんの就農スケッチ

保育園でのパン作り

よっちゃん

2月、息子の太一が通う大戸保育園から頼まれて、子どもたちといっしょにパンを作った。子どもたちは、三角巾とエプロンを着け、みんな腕をまくって、らんらんと目を輝かせ、パンをこねて丸める作業をした。

「これがパンを膨らませる力になる酵母よ」と教え、酵母の匂いを嗅いでもらうと、コウちゃんが「あっ!パンの匂いがする」と言う。これには、私もビックリ。パンの匂いって酵母の匂いだったんだって、あらためて実感。子どもたちが作ったパンは、保育園のおやつの時間に間に合うよう、持ち帰って、わが家の石窯で焼いた。

3月には、となりの岩島保育園でも子どもたちといっしょにパンを作ったが、子どもたちから「お酒の匂い」「毎日お父さんが飲んでいるビールの匂い」との感想が出た。子どもたちの感覚の鋭さに、ほんとうに驚いた。大人と違って、知識以前の感覚で、ものごとに接している子どもたち。私は毎日、酵母の匂いを嗅いでいるのに、「ちょっと甘酸っぱい匂い」とか「まだ醗酵は早いなあ」とかの判断をしていただけだった。

酵母がぶくぶくと醗酵している姿には、びっくりしたようだ。酵母は目に見えない菌の一種。ばい菌のような悪さをする菌もいるけど、パンや味噌、納豆やお酒などの良い菌も、私たちの周りにはいっぱいいる。みんなの手にも着いているから、その手でパンをこねて丸めると酵母菌が育って、おいしいパンになるという話をした。今、除菌ばかり言われているが、それでは良い菌もいっしょに排除してしまう。

子どもたちひとりひとりの手を経て、こねあがったパン生地はつるつるのいい顔をして
いる。リナちゃんが、パン生地を指で押しながら「お餅みたい」と言う。リョウくんが「粘土や泥団子のやり方といっしょだ」と言って、小さな手でパン生地を上手に丸めていく。子どもの感性は、本当にすごいなあ。

今日のパンは、焼きたてが美味しいフーガス。石窯に薪の火があるうちに、のばして入れ
て2~3分で焼きあがる。直火焼きのフーガスは、その時のこね具合、石窯の蓄熱量や炎の強さによって、焼きあがり方、膨らみ方が異なる。そして、顔の表情も、この世にふたつとないパンになる。

わが家の石窯で焼いてから保育園に持っていくと、子どもたちは「あー、膨らんだ、膨らんだ!」と大喜び。焼きあがったパンには、薪の匂い、灰の匂い、火の香りが染み付いている。その香りを味わいながら、みんなでおいしく食べた。

酵母と暮らす季節


酵母は、私たちの周りにいっぱいいる。その酵母を干しぶどうやライ
麦を媒介させて捕まえる。干し葡萄の好きな酵母、ライ麦の好きな酵母、牛乳の好きな酵
母、それぞれによって味や香りが異なってくる。酵母を集めパンを焼いているとわが家の
まわりには酵母が年々増えてきたようだ。最初の年よりも今では短期間に容易に酵母やパ
ンが醗酵しやすくなっている。またその土地に合った酵母がいるようで、私の酵母たちは
低温でも結構元気に醗酵する。頼もしい限りである。
毎年パンを焼く季節になると(わが家は農閑期の冬にのみ石窯パンを焼いている)私は
酵母を飼いたくなる。ガラス瓶やタッパーにいろんな酵母を集めてはこたつの中で増殖さ
せる。干し葡萄、牛乳、ライ麦、玄米、酒かす、ヨーグルト、全粒粉…とこたつの中には
10種ちかくの酵母が生息している。こうなると人間の足はこたつのすみっこに追いやら
れるはめになる。でも家の中にぶくぶくと元気な酵母がいるとあったかい空気が漂うもの
だ。毎日、各酵母にえさになる小麦粉と水を与えては醗酵させる。これを繰り返している
と、本当に力強い酵母ができる。こたつの電源を切ってしまう夜中、部屋の温度は0℃ち
かくにもなる。その寒さの中でぶくぶくと醗酵を繰り返し、朝には固く閉まった瓶のふた
を押し上げて溢れ出ているものもいる。この強い酵母は強力粉でなくても、中力粉の農林
61号でも充分に醗酵させる力を持っている。
保育園でパン作りをする機会がまたあれば、今度はこの酵母作りから子どもたちといっ
しょにパンを作りたいと思う。

石窯で焼くパン


石窯焼きのパンはおもしろい。吟味した材料を用意し、手でこね上げ、時間をかけて醗酵させる。そしてこれまた1年も前から山で集め乾かしておいた薪で火を焚き、1時間以
上も時間をかけて熱くした石窯にこのパン生地を入れる。ここまで出来得る限りすべての
用意を整えておいてもこの窯に入れる瞬間は「ああ、いいパンになりますように」と私は
いつも心の中で石窯に祈らずにはいられない。石窯に生地を入れると高温によりまずパン
の外側がよく焼かれる。そしてじわじわと中に熱が通るため、外のパンの皮がガチッと固
く、中はふんわり柔らかく仕上がる。石窯ならではの仕事である。
パンを焼くには、その日の気温や湿度を読みながら薪の量や醗酵の具合を整えていく。
何回やっても同じようにはいかないのでマニュアルや温度計はあまり役には立たない。そ
れらに代わる事といえば感覚をみがくことに尽きる。毎回毎回、今日はどんなパンに出会
えるかドキドキしながらのパン焼きは本当におもしろい。そしてわが家の石窯「マシュウ」
は、今まで一度も期待を裏切ったことがないのです。
手作りの石窯「マシュウ」。家の周囲から自分達で集めた薪。秋に種を蒔き、冬に麦踏
み、夏に収穫、脱穀、そして製粉所に持ち込んで粉にした小麦粉。自然の草の実から培養
した自家製の天然酵母でこねた生地。そして醗酵の時を待つ。石窯でパンを焼くことは、
自然のありがたさとその豊かさを感じる時を私たちに与えてくれる。

この文章を書いた人
よっちゃん
たまたま食べたニンジンの美味しさに感動し、販売元の野菜宅配会社を探って転職し、社長室に配属となる。その野菜宅配会社で出会った和田くんと社内結婚。有機農業を始めたいという和田くんに従い、群馬県の倉渕で就農した。自宅の石窯で、天然酵母のパンを焼くのが日課である。