野菜の虫食い|和田くんの就農スケッチ

和田くん

この秋、生協に出荷したチンゲン菜が、返品されてしまった。理由は、虫食いだ。

ご注文のチンゲン菜をお届けできなかった生協の組合員の皆さん、生産者団体としての信用を損なったくらぶち草の会の皆さんには、たいへん申し訳なく思っているが、私自身は、有機栽培と虫食い野菜について考える、よいきっかけになった。

虫食いが理由で返品を受けたのは数年ぶりで、就農して最初の2~3年は出荷先の品質基準がよくわからず、試行錯誤のように虫食い野菜を出荷していたような記憶がある。そして、その都度、クレームや返品という形で、品質基準を教えていただいた。

就農したころは「無農薬なのだから、このくらいの虫食いは仕方ないのではないか」という、ある種の甘えがあったように思う。何年か経て、いくらか栽培技術が向上し、ひどい虫食いも減り、おおよそは出荷先の品質基準も把握できるようになっていった。商品として販売し、お金をいただく以上、その価格に見合う品質の野菜を提供しなくてはならない。それがプロの農家だろう。

ところで、有機(無農薬)栽培に虫食い野菜はつきものである。農薬を一切使用しない
栽培、人工的な水耕栽培ではなく、自然の土壌・環境を生かした有機栽培においては、害
虫の完全なる駆除・排除は不可能なようにも思われる。もちろん、害虫の大量発生は防ぐ
ことができる。特定の生物の異常発生というのは、どこかで自然の均衡が崩れていること
の警告であり、それはその生物の天敵が激減しているとか土壌の養分バランスが崩れてい
るとか特定の科の植物が多すぎるとかを教えてくれている。有機栽培農家は、畑の生態系
バランスが整うように工夫を凝らす。輪作といって種類の違う植物(緑肥も含む)を組み
合わせ同じ科の野菜を繰り返し作らないこと。(一口に輪作と言っても、単に連作障害を
避けるための輪作から、次に栽培する野菜の特性を意識し土作りを考えた輪作まで奥は深
い。)旬を意識しつつ野菜のその地域における適期栽培を心がける。未熟な肥料や堆肥を
大量に使用しないこと。以上の3つを守れば、わが家の場合、害虫による壊滅的な被害は
なくなる。他にも、相性のよい植物(コンパニオンプランツ・共栄植物・害虫忌避植物)
を近くで栽培するとか、網目の細かいネット(石油製品だが妥協して使用)で囲って害虫
を寄せ付けないなど、工夫の仕様はいくらでもある。それでも、一定の割合で害虫がいな
いと益虫やそれらを餌とする小動物、鳥類他の生き物が生息できなくなる。そうなると次
のシーズンに害虫が大発生する。つまり、自然界のバランスの範囲で害虫の存在は必要不
可欠。有機栽培においては害虫もその有機的循環(生態系)の一員なのだ。
一方、市場出荷であれば、虫食いの野菜や、揃いの悪い荷姿の野菜は値がつかない。だ
から虫食いなし、揃い良しの野菜(荷姿)でないと出荷物として成立しない。市場出荷が
主な販売先の一般的な農家は必然的に農薬が必要となり、真面目な農業者は荷姿の美しさ
を誇りとするようになって行く。見た目の良さ美しさは、それはそれで販売上必要である
し評価されてしかるべきだろう。しかし、外観にこだわりすぎると、農薬や化学肥料から
の脱却を実際以上に困難な課題にしてしまう。無農薬栽培や有機栽培は「難しい」とか「
できっこない」とか既存の篤農家から聞かされることがあるが、それは見た目の良さと秀
品率の高さ、つまり市場での採算性を考慮した場合の発言であり、提携(産直)や契約栽
培で購入者(流通業者や消費者)の理解があれば、有機栽培(継続的な無農薬・無化学肥
料栽培)は決して難しいことではない。
もっとも、購入者の理解があると言っても虫食いの野菜が出荷できるかどうかは虫食い
や見た目の程度の問題となる。例えばスーパーで同じ栽培の野菜が同じ値段で売っていた
ら虫食いの野菜は売れ残るだろう。生協などの団体であれば、虫食いの程度によっては組
合員から苦情がでるかもしれない。品質の基準、虫食いの程度に関しては流通団体の仕入
れの担当者も頭を悩ませているところだろう。仕分け選別の現場では、虫食いの程度、葉
っぱの何割とか全体の何割とかをマニュアルにしてみたところで、現物を目の前にしない
限りそのマニュアルはあまり意味をなさない。選別が厳しすぎれば産地や生産者から有機
栽培への理解が薄いとか「それじゃあ出荷できない・出荷しない」(売り手市場の場合の
み)とか言われ必要な野菜が揃わなくなったり、産地との関係が維持できなくなる可能性
がある。逆に、選別が緩やか過ぎれば会員からの苦情や消費離れにもなりかねない。また
「この程度の虫食いはいいのか」と生産者の甘えを誘発する場合もあるだろう。
ここ数年、食の安全への関心が高まり、低農薬や有機栽培の野菜の消費層が広がり流通
量も増えてきている中で、虫食い野菜の流通基準はますます厳しくなってきている。状況
を考えると、きれいな野菜だけを選んで荷姿をきれいに飾って出荷しておけば無難だろう
けど、果たしてそれでいいのだろうか?有機栽培であるかぎり虫食い野菜はある割合で入
り込む。その事を私は「やむをえない事情」としてネガティブに語るのではなく、積極的
な意味のあることとして「虫食いの野菜」を以って表現していきたい。一般的な消費傾向
におもねることなく、虫食い野菜をあえて流通させることで、有機農業の現場・有機栽培
の実情を多くの人に伝えたい。有機栽培の畑にはいろんな虫がいて虫食いの野菜もあるん

だってことをもっと多くの人に知ってもらったほうがいい。もしも、虫食い野菜やふぞろ
いな野菜が流通できる状況になれば、農薬に依存する一般的な栽培の多くを、低農薬から
無農薬へ、環境汚染から環境保全の方向へと引っ張り込むことができる。
実際、わが家が送り込んだ虫食い野菜が、流通団体の厳しいチェック(青果の仕入れ担
当者の目)を潜り抜け、それぞれのご家庭に届いたならば、「よくぞ届いた!」と誉めて
やってほしい。年々、産直(提携)以外では虫食い野菜が各家庭に届くのが難しくなって
きているのだから。その虫食い野菜たちが、辿り着いたそれぞれの家庭の食卓で、既存の
食の価値観や見た目の「良さ」の定義や基準を破壊し、その波紋を広げてくれることを
私は密かに期待している。

いつの日にか「虫食い野菜のほうがいい」と心から感じられる有機的感性の時代が訪れることを願いつつ。

この文章を書いた人
和田くん
愛妻よっちゃんとは、勤務先の野菜宅配会社で出会った。結婚後、野菜宅配会社を辞め、群馬県の倉渕へ移住。くらぶち草の会に加わり、有機農業を始める。現在は、新規就農者の世話を焼くのが、なにより楽しいらしい。手塚治虫のファンで、全集400巻を揃える。